トイレの数だけ安心があるまちづくり「Dトイレプロジェクト」

25Dトイレプロジェクト能勢_Dトイレ

最近、おでかけをしましたか?

近所へのお買い物、季節を感じながらの散歩、友人を誘って食事、車や電車に乗って小旅行、バスを使って病院へ…。全てのおでかけには「楽しみ」や「目的」があります。そしてそのおでかけはいつも、たくさんの「安心」に守られています。しかし、その安心よりも不安の方が大きくなってしまったら…。あなたは、おでかけへの意欲そのものを無くしてしまうかもしれません。

外出時の大きな不安のひとつ、それは「トイレ」の問題。例えば、目的地へまでの間にトイレがあるか分からない。あるいは、やっとの思いで見つけたトイレが、まるで使い方のわからない形をしていたら。あなたは安心しておでかけを続けることができるでしょうか?

今から、東京都町田市の方々と共に取り組んできた「Dトイレプロジェクト」についてお伝えします。

きっかけ

Dトイレプロジェクトが発足したきっかけは、町田市の「木曽あんしん相談室」で月に一度開催されている認知症カフェ「メンズケアラーズカフェ」での男性介護者Hさんの言葉。「55歳で認知症を発症した妻との生活で一番辛かったのは外出時のトイレの問題。妻は2時間おきにトイレ誘導が必要で、下着の着脱は困難だった。水も流すことが出来ないため、自分も一緒にトイレに入る必要があったが、まず一緒に入るための多機能トイレが少なかった。仮に見つけても、外見上介護が必要とは思われない妻と共にトイレに入ることは、周囲の目もあり、精神的な負担があった。」

同じく奥様の介護をされているKさんは「要介護4の妻のトイレの回数が頻繁になってからは、2人でトイレに入ることが嫌なので、外出や外食はしないようになった。週5日のデイサービス以外には妻を外に出さない。以前は近所の回転寿司にも2人でよく行っていたが、それもしなくなった。デイに行かない日は2人きりで自宅で過ごすため、煮詰まっている。」と、ご自身の体験談を語られました。

Dトイレプロジェクトの始まり

当事者のトイレ事情の現実を目の当たりにした「木曽あんしん相談室」の職員である竹内さんから、近隣地域にあるデイサービスの管理者である私のところへ「何か出来ることはないか?」との相談。相談室にもデイサービスのような事業所にも、トイレがあり「理解者がいるこのトイレなら、誰にでも安心して使っていただける。地域の方の外出時にも気軽に使っていただきたい。」と考え、すぐにあんしん相談室に通われている地域住民の皆さんの意見を伺いました。認知症をお持ちの方やそのご家族、トイレの回数が増えているという方、足腰が悪く遠くのトイレまで辿り着けないという方…。誰もが自分に関わることとして捉えていました。実際にアンケートを取ったところ、大半の方が立ち寄れるトイレが増えることを求めていることがわかったのです。

かねてより町田市では、英語で認知症の意味を持つdementiaの頭文字のDを用いて様々な活動(Dカフェ、Dサミット、DBOOKS、Dsakeなど)が行われています。今回はDとトイレを組み合わせて「Dトイレ」という活動にすることを決定。さらに今回のDには「同伴(DOHAN)できる」「誰でも(DAREDEMO)入れる」「どこ(DOKO)にでもある」などの意味も込めようという話になりました。

ステッカー選び

Dトイレ説明文

トイレをお貸ししていることがわかるように、外から目立つ場所へステッカーを掲示することにしました。デザインは、幾つかの候補から当事者の皆さんに選んでいただいた上で、意見を参考に細かい修正を重ね完成させました。「Dトイレ」だけでは意味が伝わらないため、説明文も並べて掲示することに。

Dトイレのひろがり これから

Dトイレ賛同事業所

 

Dトイレプロジェクトでは、トイレの機能や規模、スタッフの関わり方などルールは一切設けていません。活動内容は「困られている方にトイレをお貸しする。」とシンプル。賛同者を募るため、竹内さんや私を中心に町田市内の事業所へ直接お願いをしに、またSNSを活用するなどの広報活動へ取り組みました。

その結果、活動開始から僅か3か月でおよそ50か所ものDトイレが誕生。介護施設・病院・薬局、さらには不動産会社や町の葬儀屋さんまでも賛同してくれたのです。「自分達にも出来るトイレの貸し借りをきっかけに、地域との関わりや繋がりを深めていきたい」と賛同者は口を揃えます。

各種イベントにおいて活動報告や講演を重ね、他市町村の方々から多くの問い合わせがありました。特別な準備も費用も不要なため、今後は町田市に留まらず日本全国へ活動が波及していけばと考え、広報活動を続けていきます。

最後になりますが、Dトイレプロジェクトは「Dトイレの数を増やす」ことで町中に「安心が生まれる」ことを目指しています。あなたの町でもぜひ取り組んでみませんか?

【著者プロフィール】

能勢 光
株式会社ファイブスター「認知症対応型デイサービスおとなり」管理者・
10代の頃に祖父が認知症になったのをきっかけに、介護の道へ進む。介護福祉士取得後、販売職・営業職・コピーライティングなどを経験し26歳でデイサービスの管理者に。地域の仲間と共に認知症の有無に関わらずその方らしく活躍できるまちづくりに取り組んでいる。リーダーとして関わったDトイレプロジェクトは「NHK厚生文化事業団 認知症とともに生きるまち大賞」ニューウェーブ賞を受賞。
【公開連絡先】
Dトイレプロジェクト
担当:能勢 光 (認知症対応型デイサービスおとなり)
電話:046-205-4400
メール:otonari.5s@outlook.jp

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