2016年度・2017年度 全国の電話相談のまとめ

A      今後の課題

 

1.       相談者の介護による社会的孤立をサポートすると共に日頃から本事業のPRと啓発

受電総数は、2016年度9,931件、2017年度11,886件であり、二年とも一人の相談者は2項目の相談内容(悩み)を抱えている実態である。また相談者は、非会員が90%を超えて圧倒的であり、支部の方の会員数が多くても10%に留まっている。電話相談は、身近に相談できる利便性もあり、特に本部の場合フリーダイヤルで、本会における電話相談事業の社会的貢献度の高いことが伺える。相談者のなかには、「31疲労が限界、パニック」「32体調崩す、持病悪化」「33うつ」(3項目の計:2016年度約11%、2017年度約20%)を相談している。今回は、リピーターについてのデータがなく明らかに出来なかったが、 2013~2015年度の本部の電話相談事業報告書(2013~2015年度)1)では、4人に一人がリピーターである。リピーターの相談者のなかには、うつ病や他の疾患を抱え介護によりさらに自身の体調を悪化させ、社会的に孤立している場合もある。これらの相談者に対しては、他者とのつながりを促進する一つとして会員加入をすすめ、各都道府県支部の活動による手厚いサポートを受けられるようすることも重要である。会員になれば支部活動を通して会員同士の交流、情報の入手やサポートが得られ認知症の人と介護するものの両者にとってより望ましい介護法を工夫でき、介護にともなう孤立感や不安、介護負担の軽減にもつながるであろう。また本会が、 「認知症があっても安心して暮らせる社会」を目指し活動していることや会員であることのメリットをPRし、認知症の諸課題に取り組んでいる身近な存在であることを、若い世代を含め広く啓発していく必要がある。

 

2.       ネットによる相談事業の充実と拡大化

相談者の相談経路は、「8ネット」が全体32%で、本部の場合「2016年度52.8%、2017年度56.2%」で最も多く,年毎に増加している。今後もインターネットやスマートフォンなど利用率上昇の加速が予測されることから、最も多く、年毎に増加していることから、本会のホームページをはじめとする認知症に関連する多様な情報提供のさらなる充実が必要である。2017年1月からスタートした会員交流サイト・alun-alun(アルンアルン)による広がり、充実が望まれる。

 

3.       実母を介護する娘へのサポートの必要性

相談者は、圧倒的に女性が多く、ほぼ半数が同居し実母を介護している。女性は、「25.家族・親族との関係・葛藤」「29.話や気持ちを聴いて欲しい」についての相談が多い。これは、「娘が実母を看るのは当然」として周囲からサポートを得にくい風潮がある一方で、「娘の介護の抱え込み」「兄弟姉妹間の介護への温度差や不公平な介護分担」「長い間の母娘の互いに離れられない共依存関係や確執」などが母親の認知症発症により多様な問題発生につながっていると推察される。これら娘の苦悩について充分に聴き寄り添うことが大切であるが、認知症にともなう母娘関係の再構築や、娘を取り巻く人間関係の調整、娘の悩みや孤立感を軽減する交流の場の提供などについての情報提供、また娘へのサポートのあり方について関連機関への提言が必要である。

 

4.       男性介護者へのサポートの必要性

男性の相談者は、2年共に約20%を占めている。平成29年高齢社会白書7では、男性介護者が約31%を超え、増加していると報告されている。この報告は、認知症の介護者に限定されていないが、本報告の男性介護者も含まれていると推察される。また斎藤8は、男性介護者の特徴として平均年齢69.3歳(最年少36歳、最年長93歳)歳で高齢男性介護者が多いこと、健康状態に問題を抱えており、高年齢になるにつれ不調・通院が増加する傾向があること、男性介護者の7割が無職である、ことなど報告している。このことから男性介護者には、かなりの介護ストレス、負担や悩みなど多いと思われる。本会の電話相談では、男性の相談者が2年共に約20%に留まっているが、「男性は、一般的に弱みを見せられず相談できないのか」「男性固有の人間関係8」「責任感の強さ=介護のがんばり8」などのためか、さらに継続検討が必要である。

 

5.       「老老介護」「認認介護」、「看取り」にともなう多岐にわたる諸課題への対応・対策

配偶者による相談は、2003報告1)とほぼ同じ傾向(約12~15%)で妻のほぼ5人に一人が夫を介護している。本報告の要介護者の平均年齢は、男性78歳、女性80歳であり、介護する配偶者の年齢が共に後期高齢者が多いと推察される。また前述の実母を介護する娘の場合も、親の年齢から考えて50歳代から前期もしくは後期高齢者であると推測される。「国民生活基礎調査(平成25年)」)では、要介護者を主に介護する者の世帯の51.2%が65歳以上と報告されている。さらに老老介護を行っている世帯の約10.4%が認認介護であるという報告9)もある。今後も、平均寿命の延伸が予想されており、介護者の高齢化による「老老介護」や「認認介護」の増加が推察される。本報告では、「「老老介護」「認認介護」による低栄養状態など日常生活リズムを維持する困難や生活ごみや火の不始末、介護放棄、虐待、振り込め詐欺等について具体的にデータとしてまとめられていない。また「54.延命処置に関すること」が1%に満たず、「55.看取りに関すること」の相談が2%に留まっているがわずかに増加傾向にある。今後迎える多死社会において「老老介護」「認認介護」の当事者が、多岐にわたる問題を抱え、また「死に場所難民」にならないよう、心安らかで穏やかな人間らしい日々を最後の日まですごせる仕組みつくりについての提言も必要である。

 

6.       受診拒否や早期受診、早期診断への対応・対策

受診率は、2年共に約80%であり、受診した「半年以内~2年以内」に電話相談してきている、ということである。「家族の会」(監修片山)ら6)によれば、「変化に気づいてから確定診断までにかかった期間」が平均15カ月(n:361)と報告している。本報告において相談者の半数は、受診した「半年以内~2年以内」に電話相談してきており、確定診断にいたる不安や認知症の本人とのかかわりにおいて多様な葛藤を抱えていることが推察される。この早期に電話相談をしてくるということは、本会が認知症に直面した本人や家族の身近な相談窓口として存在し活動していることが認知されており、認知症診断の初期段階に救いを求めて本会の電話相談にSOSしていると推察される。また2017年4月に開催された国際アルツハイマー病協会国際会議の広報活動などにより人びとの関心の高まり、「認知症サポーター」が全国で1千万人を超え(2017年3月)、「認知症が身近な病」という認識が広がり、「偏見」の緩和や解消が受診につながったとも考えられる。

本会は、1980年の結成以来約40年、地道に認知症の人や家族とのつながりを大切に支援活動や認知症に対する啓発活動を継続しており、人びとに広く認識されていることが伺える。本会が、今後もますます活動を充実させ、人びとの期待に添えるようたゆまない活動を推進する必要がある。

 

7.       長期間介護への家族支援の重要性

「介護制度の未利用」「要介護1・2」の相談者は、「1.物忘れ」「9.妄想(物とられ、嫉妬など)」「30.介護方法・工夫」の相談が多い。 「要介護3・4・5」の相談者は、「25.家族・親族との関係・葛藤」「29.話や気持ちを聴いて欲しい」の相談が多い。 相談内容は、介護期間により多様で個別的で異なるために相談者の立場に寄り添い充分に聴くこと、認知症本人と家族の関係性やそれぞれの人生や暮らしてきた背景を充分に理解・尊重すること、個別的で柔軟な対応が必要である。特に長期介護の場合は、認知症本人と介護家族、介護家族とその回りの家族・親族との関係に起因するなやみが増幅すると推察される。長期間の介護継続には、 介護者の負担やストレスを増強しないよう充分に聴き個別的な対応と共に、人間関係の再構築を始め介護環境の調整への助言が重要である。電話相談では、介護家族が長期間の介護にどう向き合うかについて吟味することや介護を抱え込まないよう周囲からのサポートを得る方法などを共に考え・検討する機会となる。さらに介護家族は、認知症の人の諸言動をとうして本人の心境や生きている世界を理解することにより対応を工夫し、介護疲労を軽減することもできる.たとえば、本人が支離滅裂な話をしている背景には、認知症の発症や介護を受ける立場となり、不安や苦しみ、失意、周りへの遠慮、またプライドを傷つけられた怒りなどを、表現できないままでいることがある。さらに残された人生への希望や思いなど家族や身近な人に語ることができないでいることがある。介護家族は、電話相談で話したり、相談員とのやり取りをとおして、前述のようなことがらに気づき、本人理解が深まっていくことが多々ある。しかし電話相談の限界もあり、より適切な家族支援について専門的な支援チーム、関連機関へ発信することも必要である。

 

8.       本部相談員の心がけ

電話相談員は、認知症の人の介護経験者や専門職としての経験者が「相談者の悩みを聴きながら少しでも日頃抱えている介護にともなう多様な重圧感や負担感から解放され電話を切ってほしい」と願い、熱意をもって相談に応じている。 もちろん、相談活動をしていく中で、個人的な情報の漏洩防止を厳守して取り組んでいる。 相談者からの相談内容は、フリーダイヤル開設当時と変わらない内容もあるが、年毎に相談者や要介護者の暮らしや介護環境が複雑多岐に変容してきている。電話相談員は、一定の養成研修を受け、さらに現任研修や日々自己研鑽を重ね、一期一会の思い、誠意を持って電話相談に応じている。今後も認知症を取り巻く医学・介護の進歩や介護保険制度をはじめとする諸制度の変革などの推移に遅れをとらず、認知症の人や家族への理解を深め、自分自身を自己点検しながらその時代の相談活動の現場に活用できる対応力、質の向上が求められる。

 

平成29年度 公益財団法人キリン福祉財団 計画事業助成:報告書

引用文献

1.公益社団法人認知症の人と家族の会:電話相談事業報告書(平成28年度キリン福祉財団計画事業助成:中間報告)、2017年3月、京都府。

2.平成28年国民生活基礎調査の概況:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html、2017年6月27日。

3.平成28年高齢社会白書:
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/zenbun/28pdf_index.html、2016年。

4.認知症はじめの一歩:https:www.ncgg.go.jp/monowasure/news/documents/0511-5.pdf、2015年4月1日。

5.平成29年版情報通信白書:
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/pdf/index.html、2017年7月。

6.片山禎夫監修:認知症の診断と治療に関するアンケート調査,「家族の会」調査協力・報告書編著,http://www.alzheimer.or.jp/webfile/shindantochiryo_tyosahoukoku_2014.pdf、2014年9月。

7.平成29年高齢社会白書:
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/29pdf_index.html、2017年.

8.斎藤真緒:男性介護者全国調査報告、
http://www.ritsumei.ac.jp/ss/sansharonshu/assets/file/2011/47-3_04-01.pdf、2011年12月。

9.みんなの介護:
https://www.minnanokaigo.com/guide/care-trouble/elder-to-elder-nursing/、2017年5月。

参考文献

公益社団法人 認知症の人と家族の会 愛知県支部:介護家族をささえるー認知症家族会の取組みに学ぶ、中央法規出版,2012,3、東京都。

公益財団法人認知症予防財団 FPD:「認知症110番」で見る日本の介護事情-調査報告書(改訂新版),2015.3、東京都。

公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部:認知症てれほん相談―歩み続けて30年(1982年度~2011年度)―,2013.3、東京都。

社会福祉法人仁至会の認知症介護研究・研修大府センター(認知症介護研究・研修大府センター):若年性認知症コールセンター2015年報告書,2016.3、愛知県。

湯原悦子、尾之内直美、伊藤美智子他:認知症の人を抱える家族を対象にした電話相談の役割-認知症の人と家族の会愛知県支部が行う電話相談5,300件の分析から-、日本認知症ケア学会誌、vol9no1,30~43。

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