認知症と診断されたら

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こんにちは。よくお会いしますね。ご夫婦で受診ですか。うちもそうです。妻のもの忘れでこの病院を受診して10年です。隆志さんと和子さんですか。和子さん、54歳なら妻の発病時と同年齢ですね。
かかりつけ医もいろいろ教えてくれますが、診療時間には限りがあります。私もお手伝いできるかな。「軽度認知機能障害(MCI)」という、認知症の前の段階もありますが、和子さんは妻と同じ認知症の診断を受けたのですよね。今後の話をしましょう。

「病気について」

妻は血管性認知症という脳内血管が「目詰まり」を起こし、脳細胞が働かなくなる認知症で、割合は認知症の人の10~15%ぐらいです。
和子さんはアルツハイマー型ですか。10年ほど前までは若くに発病する「若年性アルツハイマー型」は急激に悪化するイメージがあったようですが、今では若い人も高齢者も脳変化に差はないと言われています。高齢者を含めると全体の50~70%と多くの認知症の人が、この病気です。
パーキンソン症状や幻視(まぼろし)のあるレビー小体型(10%ほど)、脳の前頭葉と側頭葉が縮む前頭側頭葉変性症(数%)などもあります。友人は前頭側頭葉変性症で、性格が変わってこれまでとは異なる行為が出ました。言葉の意味がわからなくなる意味性認知症などもあります。

「症状について」

認知症は同じに見えて症状が異なるため、和子さんの状態を知ることが大切ですね。判断力や記憶力が低下する中核症状と、不安や気分の沈み、幻覚や妄想が出る周辺症状(BPSD)があります。妻も私が「物を盗った」と言いました。
周辺症状は、必ずしもすべての人に出るものではありませんから、和子さんはもの忘れや判断がしにくい反面、周辺症状が出ないタイプ。妻はもの忘れは軽いですが、周辺症状が激しいタイプです。同じ認知症でも、その人によって症状が異なるため、中核症状と周辺症状の関係を見て「何が起きているのか」わかると対応しやすくなりますね。

「薬について」

認知症を「完治」させる薬はありませんが、進行を遅らせる薬はあり、うまく合うと症状が進みにくくなりますから、合う薬を適切に使うことが大切です。

 

「病気とのつきあい方」

世間では「認知症になったらおしまい」などと言われますが、「認知症はなったら終わりではなく、なってからが勝負」だということです。和子さんも診断を受け、告知を聞いたからといって絶望することはありません。妻の経過を見てください。かかりつけ医とともに、おだやかに10年を過ごすことができています。
悪化を防ぐために心がけたのが、慢性の生活習慣病などの病気を安定させることでした。妻は血圧の上下があり、小さな脳梗塞をくり返すと認知症にも悪い影響が出ます。糖尿病や脂質異常症が悪化しないようにすると、認知症の進行が遅くなりました。水分制限がない限りは水分をとることも大切です。食事の量が減ると水分量も減りますからね。運動も妻の役に立ち、筋肉の血流が良くなると脳も活発になりました。

隆志さん、和子さんの気持ちも大切です。たとえ病気でも和子さんが「これは私の役割」と思えることをさせてあげてください。本人の心の支えが病気の進行を遅らせます。そして、隆志さんや私のような介護家族がひとりで悩まず安心してケアができれば、本人の認知症の悪化を先送りできます。
かかりつけ医の患者さんには、20年の長期にわたって病気と向き合いながら人生を送ったアルツハイマー型認知症の女性もいました。この病気は「~できなくなる」ということばかりに目を向けるとマイナスイメージが生じます。かかりつけ医とその女性は「それでも~ができる」といつも自分に「できること」を見つけました。
今後のことで不安と絶望にとらわれるかもしれません。そんな時に思い出してください。あなたは暗闇の海をひとりで漂う人ではありません。隆志さん、和子さん、またお会いしてお互いに支え合いましょうね。

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