介護に大切なものは、想像力と演技力!

27青山ゆずこ_画像2

私は25歳からおよそ7年間、“夫婦揃って認知症”だった祖父母と同居をしていました。

血管性の認知症のおばあちゃんと、アルツハイマー型のおじいちゃん。そして認知症の知識や介護のことをまったく知らない孫。そんな私にできたことは、相手になりきって考える“想像力”と、ときに女優になってみるということでした。

大切なのは、祖父母の“世界”を否定しないこと

「あんたは孫じゃない。私の娘だろう? どうしてウソをつくんだ」

毎朝目覚めて突然、いつもこんなことをおばあちゃんに言われます。でも私は否定しません。その瞬間、私はおばあちゃんの娘に一瞬で変身します。

「あら“お母さん”おはよう。あたしお腹すいちゃった~! そんな怖い顔しないで、早くご飯たべよう」

おばあちゃんの世界の中では私は娘。本当にそう思っているのに、否定してしまうと混乱し、余計にパニックになってしまいます。だったら今この瞬間、本当に私が娘になればいい。そう、私は毎日朝から一瞬で女優になるのです。

おばあちゃんからの“キャスティング”はいつも突然言い渡されます。

ときには家の塀を直す大工さん、美味しい料理を作るコックさん、昔のおばあちゃんの大親友、そして大物演歌歌手。「お会いできて光栄です……!」と握手を求められること。そのたびに私は架空のマイクを握りしめ、本人になりきります。もちろんウィンクと笑顔も忘れずに。生歌を目の前で歌ってプレゼントすると、祖母は感激してチップをくれるんです。ありがたく頂戴し、私はさらにサービスのウィンクと生歌をプレゼントします。

そんな日々を過ごしていると、「正しいことを突きつけることだけが“正解”ではないんだなあ」とつくづく思います。正論を告げると暗くて険しい表情になったり、混乱しているのか眉間にずっと深々と皺を作って考え込んでしまう。でも私が国民的人気歌手としてふるまうと、笑顔が生まれ、会話も弾んで盛り上がります。こんなにも喜んでもらえるなら、私はいくらでも熱唱します。ただちょっと困るのは、「国民的人気歌手!」と呼ばれて振り返ると、「公園の清掃員さん」と一瞬で配役が変わることも……。こうして演技や役作りも瞬発力が求められ、私の女優力は日増しにレベルアップしていくのです。

三ツ星シェフから、おばあちゃんに甘える孫に一瞬でキャラチェンジ

そんな大物女優の私の前にも、突然壁が立ちはだかるときがあります。

その日は“三ツ星ホテルに勤務している超有名シェフさん”と呼ばれ、キッチンに立っていたときのこと。おばあちゃんが突然、「私はもうご飯は食べたくない!」と食事を拒否したのです。ほかの家族は、「ちゃんと食べないと健康になれない」「どうしてワガママを言うのか」と正論を突きつけてなんとか食べさせようとします。

でもおばあちゃんは知らんぷり。そこで私はこう考えました。「もしかしたら周りから〇〇しなさい」と強く強制されるのが疲れたちゃったのかもしれない。だったら、反対におばあちゃんに頼ってしまうのはどうだろうか、と。そして私はおばあちゃんにこんなお願いをしてみました。

「この食材、私は本当に苦手で食べられないの。でも残すとお母さん怒られちゃう。誰か代わりに食べてくれる人いないかしら」

「おばあちゃん、一生のお願い。私の代わりにこれを食べてくれる?」と、横目でチラリ。

プライドを傷つけるのではなく、反対にくすぐってしまう。するとおばあちゃんはちょっと誇らしげな顔つきになって、

……本当にあなたは、私がいないと何もできないのね」と苦笑いしながらも料理を食べ始めるのです。相手の気持ちを想像する力、そして優しい演技力。そんな力を駆使しながら、笑いあり、涙ありの祖父母との在宅介護生活はおよそ7年間続きました。

そして、そのロックでクールな日々を描いたのが、『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)という私の漫画です。

介護をする自分のことも、ちゃんと大事に守ってあげて

私が描いたこのノンフィクションの介護漫画は、重くつらい内容ではありません。ケアする人たちに共感してもらい、それでいてちょっと笑える。そんなストレス発散にもなれば嬉しいです。

どれだけ自分の生活を犠牲にして相手に尽くせるか、そんな自己犠牲の上に成り立つ介護はすぐに破綻してしまいます。私が7年間の介護を体験した感じたのは、ケアをする人をケアすることの大切さ。つまり“介護をする自分”も大切にできないと、心身ともに簡単に挫折してしまうのです。介護には〇〇をして当たり前、こうしなければいけないという正解や常識はありません。家族の数だけそれぞれの介護がある。福祉サービスや介護のプロなどを交えて、最後の最後まで介護する人される人みんなが、自分らしく自分の人生を楽しみながら共に歩める。介護を経て家族の新たな一面が見れて、より家族を好きになる。そんな時代が来ることを切に願い、そのためにも私は記事を執筆し、漫画を通して世界中の家族を応援したいのです。

【著者プロフィール】

青山ゆずこ
ライター・イラストレーター・漫画家
おもに週刊誌や月刊誌で活動。
またノンフィクション漫画の原作なども手がける。
2011年から“夫婦そろって認知症”となった祖父母と同居。
当時は25歳。介護の経験はゼロ。独学で認知症と向き合い、在宅介護を行う。
いつか、世界中のじーちゃん・ばーちゃんの介護事情を取材するのが目標。
書籍『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)
【公開連絡先】
https://www.tokuma.jp/book/b494031.html
Twitter@yuzubird

ピックアップ記事