認知症がある人たちによる地域貢献の取り組み

24稲田秀樹_①住民と一緒に花植え

◆地域貢献を行うデイサービス開設。

2016年、鎌倉市の高齢化率46%の住宅地にデイサービス「ワーキングデイわかば」を開設しました。定員9人の小さなデイサービスです。デイサービスの利用者のうち9割が認知症がある方で、若年性認知症の方が現在2名利用しています。
ワーキングデイわかばでは、近隣の公園の遊具の清掃や花壇の花植え、水やり、商店街の歩道の清掃、住宅地の高齢者宅の草刈りなどの地域貢献活動を行っています。また、昼食の調理や配膳、お茶だし、洗い物、片付け清掃、新型コロナウィルス対策で行っている備品の消毒も施設の利用者にお願いしています。また地域の住民グループから仕事を頼まれることもあります。このほか地域の団体の広報誌などの封入作業、郵便局への投函などデイサービスの利用者の仕事になっています。

◆ワーキングデイサービスの活動

毎朝、雑巾や熊手やカマを持って公園に行きます。みなさん道具を使ってていねいに作業を行います。認知症の進行の状態にあわせて作業内容を調整、役割分担して掃除を進めていきます。落ち葉を掃く、草を刈る、花に水をやる、遊具を拭くといったシンプルな作業は、手続き記憶(体が覚えている動作の記憶)を活用できるので軽度から中度の認知症の方でも無理なく活動に参加できています。

花壇に水をやる人たち

私たちのデイサービスでは、認知症の人に活動日誌を書いてもらっています。記憶障害がある方がほとんどですから、10分前の出来事も覚えていないことが多いのですが、スタッフがサポートして記憶を喚起したり、作業の内容を伝えてノートに記入してもらっています。ノートを書くたびに忘れていることに直面することになりますが、それでもみなさん一生懸命にノートに記入しています。自分が忘れていること意識化することは、同時に不安に向き合うことにもなりますが、それでもノートに書くことで、認知症を抱えていても、周囲の仲間とともに励まし合い、支え合う関係ができ、病気の認識を受け入れることが苦痛ではなくなり、自己肯定感を高めることにもなるからです。
高齢者宅の草刈や広報誌の封入作業などでは謝礼を頂くことがあります。頂いた謝礼は大入り袋に500円玉(*コインという表現も…)を1枚入れて利用者全員配布しています。そのほかメンバーの得意な技能を生かした作品づくりにも力を入れていて、編み物や縫い仕事でコースターやマスクを作ったり、陶芸で小皿やアクセサリーを制作したり、絵画作品を地域の展示会に出品したり、イベントで販売したりしています。

絵画制作に取り組む人

地域貢献を行うデイサービスの発想は、私が住宅地の公園を歩いていたとき、ふと気がつくと、遊具が錆び、周囲には草が生え、落ち葉やゴミがたまっていることに気付いときに生まれました。それは子どもが遊んでいない証拠でした。遊具をきれいにしたり、公園を掃除することなら認知症の人でもできると考えるうちに、地域貢献を行なうデイサービスのプランが浮かびました。
2016年9月にワーキングデイわかばをオープンすると、さっそく利用者と近隣の公園の掃除に出かけました。デイサービスの利用者とスタッフが一緒に遊具を拭き、草を刈り、落ち葉を集めました。落ち葉ひとつ拾うのにも身体をかがめたりするので、これらの活動で身体の柔軟性や筋力の維持向上の効果が期待できることを話すとケアマネジャーや関係者が見学に訪れるようになりました。

◆認知症の人による花壇整備活動

デイサービス開設から3か月後、公園に花壇を整備することを町内会に提案しました。日々の公園をきれいにしていましたので、その点が認められ、花壇整備の依頼を頂きました。さっそくデイサービスの利用者と一緒にどのような花壇をつくるか話し合いを持ちました。花壇整備にあたっては、利用者の意見をたくさん取り入れました。。「近所の人に気持ちよく花を見てもらいたい」「みんなのために」「きれいにして楽しんでもらう」「小さい子どもたちや親御さんたちが集まるような、大切にしてもらえるような」そんな公園にしよう、といった意見がたくさん出ました。花壇整備のコンセプトが出来上がると、この話し合いの結果を議事録にまとめて町内会に提出しました。花壇が出来上がると、公園で遊んでいる親子にも声をかけて、みなで一緒に花を植えました。
清掃中に「いつもありがとうございます」と子どものお母さんから声を掛けられることがあります。そのことが、ひとりひとりの意欲の向上につながっています。これらの活動を住宅地の中で行うことには大きな意義があります。認知症がある人による地域貢献活動は、認知症の偏見を失くすことにつながります。地域のコミュニティーのなかで、認知症がある人たちが主体となって活動することで、人々がともに支え合える、人にやさしい共生の地域をつくる契機になります。
そしてなによりも、認知症による生きづらさや、不便さや、不安な気持ちを抱えながらでも、風や空気や日差しを感じ、子供たちや、地域の人々と共に過ごしながら、認知症の状態をできるだけおだやかに保ち、安心して認知症になれる町をつくる役割を、デイサービスに通う人たちが担っていることこそ意味があるのだと、私は思っています。

空家の草刈りをする人たち

調理に参加する人

【著者プロフィール】

稲田秀樹
株式会社さくらコミュニティーケアサービス代表取締役
ワーキングデイわかば 管理者

プロフィール
1961年 東京生まれ、
2011年神奈川県鎌倉市に地域認知症デイサービス「ケアサロンさくら」、一般社団法人かまくら認知症ネットワークを設立、2016年に認知症の人が地域貢献デイサービス「ワーキングデイわかば」開設。認知症の人とフォークデュオ「ヒデ2」を結成し演奏と講演活動を行なう。認知症の人の社会参加活動を実践しながら、認知症の支援者、当事者、家族のネットワーク作りに取り組んでいる。(株)さくらコミュニティーケアサービス代表取締役、一般社団法人かまくら認知症ネットワーク代表理事、介護福祉士、社会福祉主事、認知症ケア専門士。著書に「心を揺さぶるアートクラフト」QOL出版がある。

ピックアップ記事