アメリカ/北米の先住民族に最適な認知症サポートを提供
国際アルツハイマー病協会(ADI)は、ウェブサイトで、世界アルツハイマーレポート2022(World Alzheimer Report 2022)のエッセイ「北米の先住民族に最適な認知症サポートを提供する」から、ジョーダン P ルイス氏(Jordan P Lewis (アレウト族、Aleut ※1) と クリステン M ジャクリン(Kristen M Jacklin)が、北米の先住民社会における文化的に合わせた認知症ケアの必要性について書いています。
※1 アレウト族:アレウト族またはアリュート族は、アラスカとカムチャツカの間にあるアリューシャン列島の先住民族。
今年の世界アルツハイマーレポートは、診断後のサポートに関する世界の状況を中心に、事例研究(ケーススタディ)、共有された経験、専門家のエッセイで構成されており、メモリーキーパーズ医療発見チーム(MDT)のジョーダン P ルイス氏(Jordan P Lewis (アレウト族、Aleut)) と クリステン M ジャクリン(Kristen M Jacklin)による「北米の先住民族への最適な認知症サポートの提供」などが含まれています。
9月21日に発表されたWorld Alzheimer Reportを受け、著者による追加紹介を含め、エッセイの一部を紹介します。
クリステンは次のように語りました。
「認知症に関する西洋の生物医学的な視点は、1世紀以上にわたって認知症についての考え方(会話)を、支配してきました。ここ数十年は、この生物医学的な疾病概念に沿った信念と理解を持つ人々を優遇する診断とケアモデルの開発に力を注いできた。
他の知識体系を持つ人々は、発見やプログラム開発から排除され、その結果、ケアへのアクセスに不公平が生じることになりました。この生物医学的覇権主義は、もちろんアルツハイマー病や認知症に限ったことではありません。しかし、アルツハイマー病は先住民族にとっては比較的新しい病気であるため、知識体系をより良く調和させ、より公平でより良い結果を得るために努力する機会があるのです」
「私たちにとって、包括性とは、単に生物医学的な臨床試験や介入に参加することではありません。それは、先住民の知のあり方や行動のあり方を認め、取り入れることを含みます。」
北米の先住民に最適な認知症サポートを提供するために
アルツハイマー病や認知症の割合は、過去20年間、北米の先住民族において増加し続けています。
政策当局、研究者、医療提供者の対応の遅れが、適切な診断とケアへのアクセスにおいて、すでに大きな不平等を悪化させています。この認知症格差は、植民地支配の歴史、健康状態の悪化につながる政府の政策、複数の心血管疾患や代謝性疾患の若年発症率の高さなどの生物学的危険因子など、認知症のリスクを高める複数の体系的要因から生じるものです。
また、先住民族社会は、何千年にもわたって健康的な加齢を支えてきた「文化的・癒し的システム」との同化・断絶を目指した社会・経済政策によって深刻な影響を受けてきました。
文化的に安全で公平な認知症ケアの必要性
適切なケアを受けるための重要な課題は、先住民の明確な説明モデルが存在する病気に対して、文化的な不一致が存在することです。
北米の先住民の世界観では、認知症の症状は必ずしも病気とはみなされず、むしろ個人の輪廻転生の自然な流れの一部と考えられているものもあります。北米の先住民の世界観では、人は年をとるにつれて子供の頃の場所に戻り、やがて人生の終末期には生まれた場所と死んだ場所が交わるというライフサイクルへの理解があります。
これは精神的な「旅」であり、この考えに敬意を払う必要があると考えられています。
その結果、この移行期に合致した認知症の症状(例えば、抑制、幻覚、若い頃の記憶)を示す人は、サービスや診断を求めないかもしれないし、介護者もそのような症状を過度に気にしないかもしれません。このように認知症に対する先住民の理解と西洋の理解の間にズレがあるため、先住民は自分たちの文化や状況に適した教育やサービスを受けることができず、医療制度に全く関与できないこともあります。
先住民の文化的に適切な診断後のケアへのアクセスを改善することは、緊急の必要性があります。しかし、認知症の正確な診断へのアクセスは、先住民にとって依然として大きな障壁です。文化的に適切な評価ツールは開発されたばかりで、まだ医療制度に体系的に導入されていないのです。
ジョーダンとクリステンのエッセイ「北米の先住民族に最適な認知症サポートを提供する」の全文はこちらからご覧いただけます(英語)。
写真提供:Dementia Australia