認知症の人とともにある家族の権利宣言
公益社団法人認知症の人と家族の会は、2025年6月総会において「認知症の人とともにある家族の権利宣言」を行いました。
私たちは、認知症になったとしても、介護する立場になったとしても、人としての尊厳が守られ、日々を穏やかに暮らし続けていきたい、という思いで1980年から活動を続けてきました。
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(認知症基本法)ができ、私たちはいっそう、認知症の人、その家族や大切な人々が支え合いながら、人として生きがいを感じ、充実した毎日を過ごせるような安心して暮らせる社会の実現を求めていきたいと願っています。
認知症基本法は、私たちが長い間望んできたものであり、これにより認知症の人と家族への支援が充実していくことを期待しています。しかしながら、両輪となるべき家族への支援は、本人支援とは大きな隔たりを感じざるを得ません。
認知症の人への支援と同様に、家族への支援が充実していく必要があります。認知症の人と家族はそれぞれに自分で決める権利や、あらゆることに参加する権利を持っています。認知症の人と家族の人権が侵害されるような環境・社会にならないよう、そして誰もが人としての尊厳と権利が保障され、健康や幸福を追求できるよう、それらを支える制度や経済的支援、同じ経験を有する者同士が支え合う支援(ピアサポート)の推進が不可欠です。
そこで私たちは、家族への支援が充実することを願い「認知症の人とともにある家族の権利宣言」をつくりました。ここに、私たちの思いを全ての人に知っていただけるよう宣言します。
1.家族一人ひとりの尊厳と人権が尊重されること
家族も認知症の人とともに一人の人として尊厳が守られ、自分の人生をあきらめない権利があります。それぞれの立場や気持ちが尊重され、大切にされる権利があります。
2.家族がともに安心して暮らせる社会の実現を保障すること
家族が認知症の人とともに安心して暮らせる環境が必要です。家族は、それぞれ仕事を選び、続けていく自由、生活を維持していくために経済的な支援を受ける権利があります。
3.家族が必要な支援を受けられること
家族一人ひとりの状況に合ったサポートとして、必要なときに必要な支援を受ける権利があります。
4.社会全体で支え合うこと
認知症の人とともにある家族の状況を、社会は正しく理解し、社会全体でケアを担っていくことを私たちは求めます。
5.家族の経験が社会で活かされること
同じ経験をした者同士の支え合い(ピアサポート)は、社会全体としても大きな力になります。制度だけでは足りないところを補いあえる、認知症の人や家族の経験と知恵が活かされる社会をつくっていくことを望みます。
認知症の人とともにあるということ
誰もが認知症を前に悩む
認知症になる前から備えをすることの必要性
「認知症」は、その症状の特徴(記憶や見当識、判断という人間の尊厳を維持するための機能が障害されやすいということ)、その進行の特性(症状が徐々に進行していくこと)によって、診断を受けた本人も家族も、診断後から戸惑いや不安を持ちますが、中には戸惑いや不安が少ない人もいます。それは、診断以前からの認知症に関する知識と理解があり認知症への備えができている人です。そして、たとえ認知症への備えが足りなくても、診断早期(可能であれば診断前から)から認知症に対する正しい知識を得て理解をしていくこと、診断後に認知症になったことを悲観しすぎないことが大切です。認知症に上手に対応していくには、認知症とともに生きている同志(認知症の人とその家族等)に早期に出会い、その戸惑いや不安への効果的な対応方法を知ることや支え合うこと(ピアサポートが効果的です。
戸惑いや不安をともに乗り越えながら前向きに生きている人がたくさんいます。
しかし、これらの認知症への理解と対応をしていても、認知症の人は徐々に社会生活や人間関係に支障をきたしやすくなりそのことに悩み、周囲の人々や家族は認知症の人への適切な対応に悩みます。
認知症になってもできることを続けるともに悩み考える支え合うことの必要性
最近は、認知症の診断を受けるタイミングが早くなっており、認知症の診断を受けた時点では多くの認知症の人は身の回りのことを自分でできますし、少しの工夫と手助けがあれば仕事を続けることができます。それにもかかわらず、「認知症の診断を受けると介護が必要になる」という誤った認識を持つ人は少なくありません。
認知機能の低下の自覚は、日時や場所の混乱、段取り・手順を忘れることなどが多いですが、この段階では「介護」ではなく「生活の工夫を一緒に考える支援・手助け」が必要です。排泄や移動、食事、生活リズムの管理などの日常生活上の世話、いわゆる介護(療養上の世話)はすぐに必要になるわけではありません。ともに悩み考える支援が必要です。
認知症の⼈の希望の実現に向かい、認知症の⼈と家族とともにつくる未来
認知症の本⼈が主体となって多様な⼈たちとともに全国的な活動をしている⼀般社団法⼈⽇本認知症本⼈ワーキンググループは、2018 年に「認知症とともに⽣きる希望宣⾔」(資料1)を発出しました。これは、認知症基本法の制定の⼤きな⼒となりました。
この「希望宣⾔」は、様々な苦悩を抱えながらも、認知症とともに尊厳と希望をもって、⼀⼈ひとりが⽣きていくための⾃分⾃⾝の「考え⽅・⽣き⽅」について宣⾔したものです。
認知症とともに希望をもって⽣きていく決意(覚悟)を宣⾔したものであり、ともによりよい社会をつくっていく「現在進⾏形」の意識と姿を⽰したものです。
この希望宣⾔の発出そのものとその実現は、認知症の⼈だけでなく、認知症の⼈の家族にとって依り代となるものだと考えます。認知症の⼈とともにある家族も、認知症があっても希望を持って暮らしていこうという⼈、そしてより良い社会を⼀緒につくっていこうという⼈の輪を広げ、認知症の⼈と家族が⽣きやすい社会を、ともにつくっていくことを願っています。
認知症の人の家族が認知症の人とともに生きていくための社会への宣言の必要性
このような認知症の人自身が生きやすい社会を作っていこうとするとき、ともに生き、暮らしていく家族も、人生をあきらめず、希望をもって自分らしく暮らし続けていくことが必要です。家族がお互いの幸せを願うように、誰かひとりにかかる負担や犠牲を強いれば、家族関係が破綻し、家族みんなが幸せに生きられなくなります。
また、認知症は誰にでも起こりうることであり、支え合う関係の中で、家族の中の誰かが認知症をもつことも、支えている家族が認知症をもつこともあります。そのため、認知症の人も、家族も、みんなが幸せでいられるように、認知症基本法が施行されたことを契機に、認知症の人たちの希望宣言に歩調を合わせて、認知症の人とともにある家族の権利宣言をすることが必要だと考えました。
ここに挙げている権利は、日本国憲法の下にある人権が基本にあります。家族は、認知症の人とともにいる身近な人、伴奏者、パートナーとして必要な場面で認知症の人の思いの代弁を求められます。しかし、多くの家族は認知症に直面することが「初めて」であり、どのように対応していけばよいのかわかりません。また、経験があっても、認知症の症状は一人
ひとり異なり、認知症とともにあることは難しいことです。それゆえ、権利を宣言することを通して、家族が個人としての尊厳を保ち、認知症の人とともに安心して生きていけるよう、社会からの必要な支援が求められています。
私たちは、認知症基本法の謳う共生社会を実現していくために認知症の人とともにある家族の思いにも寄り添っていくこと、家族支援を充実していくことが、認知症の人の生活を豊かにしていくことであることを社会の共通理解として持っていただけるよう願い、ここに宣言をしたいと思います。
注 認知症の人とその家族とは
注1 認知症の当事者とは
認知症に悩む認知症の人とその家族であると考えます。
注2 認知症の人とは
ここでは、認知症の人を認知機能の状態や診断の有無を問わず、認知機能の低下状態に悩む人として考えていきます。認知症の人とは本来、認知症と診断された人のことです。しかし、近年の疾患修飾薬の登場によって前認知症状態や軽度認知障害の診断を受ける人がおり、これらの人は本来の認知症の人ではありませんが、認知機能の低下に悩み、不安を持つ人であると言えます。認知症とは様々な疾患の症候群であり、その症状、進行などは疾患の特徴によってさまざまであると同時に、個人によっても症状や進行は一様ではなく、ひとくくりにできないところから、誰もが認知症を前に悩みます。
注3 家族とは
私たちは、家族とは、同居の如何にかかわらず、血縁・婚姻関係にある人、あるいは、血縁・婚姻関係になくても深い関係性を持ち家族であると認識している人たちであると考えます。家族とは、2人以上の人で構成する最も小さな社会組織です。民法上では「親族」とは「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」(民法第725条)であり、「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」(民法第730条)とありますが、家族の明確な定義はありません。血縁・婚姻関係にある者同士は、その歴史、過去の関係性のあり方によってさまざまな影響を与え合います。扶け合いとは、扶養や扶助など世話をする、支えるという意味合いで使われます。
実際にこの親族の扶け合いは、その状況も、そのことへの思いも、それぞれの関係によってさまざまです。つながる縁の中で断ち切り難い関係をもつのも家族です。