佐藤雅彦さん(認知症本人)の詩
1 宣告
五十一の春、告げられた名
アルツハイマー、響くは終末の鐘か
医師はただ、事実を告げるのみ
予後の闇、治療の光、語られず
友は困惑の顔、遠ざかる影
私はただ、普通に生きてきただけなのに
認知症、それは突然の訪問者
普通に暮らし、普通に死にたかった
なりたくて、なったわけじゃない
この先人として、生きたかっただけ
医師よ、友よ、寄り添って欲しかった
辛い時こそ、温もりを求めていた
年齢を重ねれば、誰でもなる可能性
認知症は、他人事ではないのだから
2 二重の偏見
認知症と告げられ、気づく二重の偏見
社会の偏見、そして己の中にも
「何もできなくなる」「何もわからなくなる」
社会の囁きは、心を蝕む毒となる
信じ込ませる、無力という名の呪縛
二十五年、積み上げた勤めを
「もうダメだ」と、自ら手放した
培った経験、無に帰すかと
失敗への恐れ、無気力という名の牢獄
奪われたのは、生きる力と希望
病そのものよりも、恐ろしい偏見
作られたイメージ、誤解という名の刃
私たちの生きる力を、奪い去る
二重の偏見を解き放て、希望の光を灯せ
3 能力の棚卸し
認知症と生きる、見つめるは「できない」ばかり
物忘れ、記録の試み、迷子のメモとノート
得意のパソコン、日記という名の灯台
だが、綴られるは「できない」の雨
気分は沈み、心は重く
そこで気づく、視点を変えよう
その日の出来事、楽しかったこと
書き連ねれば、自信が芽生える
生活に張り、心に光
認知症でも、できることはたくさん
「能力の棚卸し」と名付けよう
できることに目を向け、希望を紡ぐ
4 デジタル新章
パソコンは慣れ親しんだ相棒
携帯、タブレット、新たな挑戦
認知症と診断され、覚える決意
弟の助け、最初の設定を終え
指一本で操るタブレット
メール、写真、広がる世界
数年前からはFacebook
繋がりを紡ぎ、喜びを分かち合う
ITに不慣れでも、大丈夫
支えてくれる人がいれば、道は開ける
便利なものは何でも利用し
新しい挑戦は、脳への良薬
デジタル新章、希望の光を灯す
5 外付けの記憶
IT機器は、外付けの記憶装置
消えゆく記憶を、そっと補う
オンラインカレンダー、予定を管理
画面で確認、日付と時間
約束のアラーム、忘却への備え
不安と恐怖、和らぐ心
骨折すれば、歩けなくなる
脳に障害、記憶の喪失
悲しいけれど、仕方ないこと
でも、記録は生きる証
出会った人、食べたもの
訪れた場所、美しい風景
生きてきた道、確かなものとして
外付けの記憶に、刻み込む
6 独り暮らしの知恵
独身、マンションに一人住まい
診断当初、施設への勧め
それでも、自分の生活を貫きたい
不便は承知、それでも選びたい
ものをなくす、食事もままならぬ
困り事を書き出し、知恵を絞る
買ってはいけな買い物リスト、家にあるものを確認
買わないもの、手にするもの
工夫を重ね、不便を乗り越える
独り暮らしの知恵、生きる力
自分の生活、自分で守る
認知症と生きる、誇り高き選択
7 自己の灯火
認知症、それは自己喪失の恐怖か
何もわからなくなる、心定の闇
自分をコントロールできなくなる
不安に苛まれ、震える日々
しかし、時は流れ、真実を知る
診断から二十年、自己は滅びず
名前を忘れても、周りが覚えている
あなたという存在、消滅することはない
言葉を失っても、新たな繋がり
周りが言葉に変わり、心を通わす
あなた自身の存在、無視されることはない
自己の灯火、決して消えない
8 新たな価値観
診断の時、価値観は崩れ落ちた
絶望の淵、新たな光を求めて
苦しみ、もがき、たどり着いた答え
人間の価値は、有用性ではない
あれができる、これができる
そんなもので、決まるものではない
有用性で決まるなら、人生は絶望
歳を重ねれば、できることは減る
他人との比較、キリがない
自分を好きになる、それが始まり
認知症になったからと、諦めない
今日を生きる、明日へ繋げる
自分を好きになる、それが力
新たな価値観、希望の光
9 人生を謳歌する
予防と進行、世間の関心事
有効な方法は、まだ見つからない
どんなことをしても、病は進むかも
進行を遅らせるより、大切なこと
より良い人生を送るために、何をするか
病気が進んでも、楽しく生きる
言葉は出にくく、病は進む
それでも、充実した日々を送る
不便さを抱えながら、人生を謳歌する
認知症でも、輝けることを示す
身をもって伝えたい、希望の光
人生を謳歌する、それが答え
10 享受する権利
認知症でも、人生を楽しむ権利がある
施設が整えば、それで良いのか
楽しみを持って生きる、その視点がない
道がわからなくても、案内人がいれば
外出もできる、新たな発見
スーパーで、欲しいものを探す
場所を教えてもらい、自由に買い物
レストランで、注文を忘れても
席の人に頼めば、好きなものが食べれる
適切な支援があれば、心豊かな生活
人生を享受する、その権利を守る
認知症でも、輝ける未来を
11 心のままに
できることと、したいことは違う
認知症になったからこそ、自由に
できるできないに、こだわらない
心のままに、好きなことをしよう
子供の頃、美術は苦手だったけれど
臨床美術で、絵を描く喜びを知る
カラオケも初めて、楽しさに目覚める
十八番は、ブランデーグラス
英会話は難しいけれど、挑戦する
自分に正直に、したいことを我慢しない
心のままに生きる、それが喜び
認知症になったからこそ、輝く未来
12 共に歩む人
認知症の人、一括りにされる違和感
症状も進行も、人それぞれ違う
日によって状態も変わり、いつも同じではない
道に迷うわけでも、言葉が出ないわけでもない
体調や疲れで、症状は強く現れる
生活も人生も、一人ひとり違う
認知症当事者という呼び方への疑問
病気だけが前面に出る、個人の違いは無視
認知症と共に歩む人、そう呼んでみたい
その人の個性が見え隠れする気がする
共に歩む、その言葉に希望を込めて
認知症と生きる、それぞれの物語
13 本人に聞く
私に聞きたいのに、尋ねない人がいる
考えているのに、代わりに答える人がいる
認知症専門員の中にも、介護者としか話さない
がっかりする、悲しい現実
認知症になっても、思考や感情は失われない
ただ、判断や言葉に時間がかかるだけ
時間がかかっても、本人に聞く
本人に答えさせる、それが当たり前
選択肢の質問、答えやすい工夫
認知症だからと、差別しないでほしい
本人のことは、本人が一番よく知っている
尊重する心、寄り添う姿勢
14 パートナーとして
「大丈夫、私たちがしてあげる」
親切な言葉、でも負い目を感じる
時間がかかれば、自分でできること
やらせてくれない、悲しい気持ち
みんな親切、感謝したいけれど
「一緒にしましょう」という言葉が嬉しい
コンサートに行きましょう、お茶を飲みませんか
支援する人、される人、ではなく
一緒に物事を楽しむ、パートナーとして
共に笑い、共に喜び、共に生きる
対等な関係、心の繋がりを大切に
認知症と生きる、温かい社会を
15 与える喜び
生きていく喜び、人のために何かをすること
してもらう一方では、甘えと欲求不満
他人のために、自分は何ができるか
考えると、積極性が生まれてくる
認知症になる前から、ボランティア活動
貧困国の子供たちを支援する
もらうことよりも、与える方が幸せ
今できることを通して、世の中に役立つ
孤立することなく、自信が持てる
与える喜び、生きる意味を見出す
認知症と生きる、社会との繋がり
貢献する喜び、輝く未来
16 コミュニティの一員として
施設や病院に閉じ込められるのではなく
街に出て、変わらない生活がしたい
買い物、おしゃべり、以前と同じように
認知症の人を、違う人間だと思わないで
共に空を見上げ、共に時を過ごす
支援を必要とする、でも劣った人ではない
社会のお荷物ではなく、コミュニティの一員
仲間と共に、成し遂げることがたくさんある
誰にでも役割がある、社会との繋がり
私たちを求めて、共に生きる喜びを
認知症と生きる、温かい社会を願って
共に支え合い、共に成長する未来
17 使命と喜び
認知症になったからこそできること
体験を語り、希望を届ける活動
認知症を恐れず、前向きに生きる姿
本人が話すこと、それが一番の説得力
売名行為だと言われることもあるけれど
傷つきながらも、使命を胸に頑張る
誤解を解き、真実を伝える
認知症の人が、充実した人生を送るために
講演で思いが伝わった時、大きな喜び
使命とやりたいことが一致した時、力となる
認知症と生きる、希望の光を灯す
共に支え合い、共に歩む未来
18 共に立ち上がろう
実名公表、発言することは勇気がいる
心身の消耗も、とてつもなく大きい
それでも、当事者が発信し続ける
思いを社会に伝え、世の中を変えていく
声を上げられない、苦しんでいる人もいる
声が出せる私たちが、代弁する使命がある
認知症当事者を支える、支援者の存在
どうか私たちと一緒に、立ち上がってください
共に手を取り、共に声を上げよう
認知症と生きる、希望に満ちた未来を
温かい社会、理解ある社会を築くために
共に歩み、共に輝く
19 幸せな社会を共に
効率優先の社会、冷たい風が吹く
高齢者や障がい者、生きづらさを感じる
失敗を許し、見守る優しい社会へ
認知症と生きる人こそ、その力がある
不自由になっても、自分らしく堂々と生きる
新しい世の中を、身をもって作り出す
認知症の人が暮らしやすい社会は
きっと誰にとっても、暮らしやすい社会
今を生きる人、未来を生きる人
認知症になっても、幸せに暮らせる社会を
みんなで一緒に、作りませんか?
共に支え合い、共に輝く未来を
20 生かされて
息をする奇跡、朝の光
「ありがとう」心でそっと
介護の手に、支えの肩に
感謝を込めて、言葉を贈ろう
不便に目を閉ざし、幸せを見つめ
温かい食事、安らぎの場所
優しい笑顔、それだけでいい
「今あるもの」心満たして
失うばかりじゃない、見つける喜び
生かされてる、今日の感謝
鈍感な心に、幸せの光を
温かい気持ち、明日へと続く