📺要約｜【国連】認知症を重要課題へ！「NCD」に加えた意味と、私たちの未来

2025年9月25日、国際アルツハイマー病協会（ADI）は、国連総会サイドイベントにおいて、国連加盟国がNCD（非感染症疾患）の項目に認知症を含めたことを報告しました。

1. オープニングと歴史的転換点：祝賀から行動へ

1.1. イベントの背景と喜びの表明

本イベントは、ADI（国際アルツハイマー病協会）がWHO（世界保健機関）と共催し、Mary Oakley財団およびDian and D Richard財団の支援を受けて開催されました。

当初は、認知症に関する行動喚起（Call to Action）の場となる予定でしたが、開催直前に認知症が国連の非感染性疾患（NCDs）宣言に正式に含められることが決定（木曜日に公式化）したため、イベントのトーンは一変し、**「祝賀と喜び」**の機会となりました。

この歴史的な成果は、WHOの貢献にも深く感謝されています。これにより、イベントの焦点は「次に何が起こるか」「宣言の実施と実行への道筋」へと移行しました。

ADIは1984年に設立され、世界中の105のアルツハイマー病協会を束ねる連合体です。そのビジョンは、「予防、ケア、インクルージョンを今日に、そして明日の治療法を期待する」というものです。

1.2. 認知症の可視化：NCDs宣言組み入れの意義

長年にわたり、認知症は非感染性疾患（NCDs）の概念には含まれていながらも、主要なNCDsの一つとして公式な宣言から除外されてきました。この背景には、**スティグマ（偏見）**が存在し、その結果として、認知症は各国の保健計画、プラットフォーム、予算、戦略から抜け落ちてしまうという悪循環がありました。

この状況が今年から決定的に変わりつつあります。NCDs宣言への組み入れが実現したことで、今後の第一歩は、NCDsの予防と管理に関するグローバルな議論において、認知症の可視性を大幅に高めることです。これまでは、ADIメンバーが各国の保健省とNCDsについて協議する際、**「認知症はNCDではない」**として、リスク軽減のためのキャンペーンに参加できないケースが多発していました。

この変化を後押ししたのは、ADIなどが今年「ネイチャー・レビュー・ニューロロジー」に発表した論文です。この論文は、現在の傾向が続けば、認知症が2040年までに世界的に見て死因の第3位となり、166カ国で死因のトップ10に入ると予測しました。この予測は、認知症を単なる「高齢化の自然な結果」ではなく、公衆衛生上の**「主要な危機」**として認識させる決定打となりました。

2. 世界的な課題とWHOの行動計画

2.1. 危機的な現状とグローバルな課題

WHOは、この問題に対してより大きな行動、投資、注目、可視化が必要であると強く訴えています。現在、世界の認知症患者数は推定5,700万人であり、この数は2030年に約7,800万人に、そして2050年までにはさらに倍増すると予測されています。

この壊滅的な未来予測に対し、世界は現状、**「深く準備不足（deeply unprepared）」**であると認識されています。しかし、何をすべきか、その道筋は既に分かっています。

WHO加盟国は、認知症への公衆衛生対応に関するグローバル行動計画を2031年まで延長することに合意しており、この問題に対する強い政治的コミットメントが示されています。

2.2. 認知症リスク削減の「Win-Winの状況」

戦略的行動の核となるのは、認知症のリスク削減です。科学的証拠に基づき、認知症の症例の40%は、リスク因子への適切な対処により発症が遅延または削減できる可能性があるとされています。

特筆すべきは、非感染性疾患（NCDs）の主要なリスク因子と、認知症のリスク因子は同一であるという事実です。具体的には、高血圧、糖尿病、運動不足、喫煙、肥満などが共通のリスク因子です。

この共通性こそが**「win-winの状況」を生み出します。つまり、サイロ化した取り組みから脱却し、より相乗的（synergistically）**に連携すれば、他のNCDs（癌や心血管疾患など）の予防・管理の改善は、認知機能障害や認知症の改善につながり、その逆も成立します。

しかし現状として、認知症リスク削減のためのガイドラインやキャンペーンを持つ国の割合は半分未満であり、その多くが高所得国に集中しています。このギャップを埋めることが、今後の大きな課題となります。

3. パネルディスカッション：各国の具体的な実施戦略

NCDs宣言への組み入れという大きな一歩を踏み出した今、パネルディスカッションでは、政府、NGO、個人レベルで次に何を行い、どのように実行・実装できるかについて、各国の代表者から具体的な視点が共有されました。

3.1. インドネシア：大規模スクリーニングとインフラ整備

ブディ・サディキン保健大臣は、義母のアルツハイマー病の経験からこの問題の深刻さを個人的に理解していると述べました。インドネシアは若年層が多い国ですが、高齢化への備えとして以下の画期的な取り組みを進めています。

1. 診断インフラへの大規模投資：世界銀行からの融資を受け、認知症診断に不可欠なPETスキャンの数を劇的に増加させる計画です。2020年12月には国内に1台しかなかったPETスキャンを、2027年末までに16台、さらにPET-CTを14台、サイクロトロンを約10台に増やし、診断機能を強化します。
2. 義務的な年間スクリーニング：今年2月に、2億8000万人の国民を対象とする義務的な年間スクリーニングプログラムを立ち上げました。このプログラムには、高齢者向けの認知症スクリーニング質問票が含まれており、早期発見を目指します。
3. リスク因子の統合管理：認知症と心血管疾患に共通する14のリスク因子（高血圧、糖尿病、運動不足、肥満など）を特定し、スクリーニング指標に含めています。結果は色分け（赤、黄、緑）で分かりやすく通知され、国民に予防行動を促します。
4. 家族介護者への支援：介護者の精神的負担を認識し、家族介護者向けのスキル、忍耐、ツールを提供するための研修プログラムを創設する意向を示しました。

3.2. オランダ：国家戦略とジェンダー平等の視点

ジュディ・タン青少年予防スポーツ大臣は、オランダにおける認知症が医療費の最大の負担となっており、医療システムと医療従事者に甚大な影響を与えている現状を報告しました。

• 予防の可能性：オランダでも、**最大45%**の認知症ケースが、NCDsと共通するリスク因子への対処により予防または遅延できると強調しました。
• 国家認知症戦略：2021年から2030年まで実施されているこの戦略は、以下の3つの柱に基づいています。
  1. 科学研究による認知症の根絶。
  2. 認知症の人々に対する社会の肯定的態度の促進。
  3. 認知症患者（特に自宅で暮らす初期段階の71%の人々）とその愛する人への個別化された支援。
• ジェンダーの視点：認知症は女性により大きな影響を与えます。オランダでは患者の3分の2が女性であり、さらに介護者の70%が女性であるため、女性は二重の負担を負っています。また、女性は研究における代表性が低く、認知症が女性において進行が速く、認識が難しい形で現れる可能性があるため、戦略の成功には女性の健康を議論の中心に置く必要があると強調しました。

3.3. ブラジル：急速な高齢化と政策の課題

マル・アンジェラ・バティスタ・ガルボン保健副大臣は、ブラジルがマラリアなどの課題を抱えつつ、急速な**人口動態の移行（高齢化）**に直面していることを説明しました。

• 現状：2024年の全国レポートによると、ブラジル国内の認知症有病率は推定200万人であり、毎年30万件の新規症例が診断されています。
• 政策の欠点：ブラジルはユニバーサルヘルスシステム（SUS）を有し、神経疾患を持つ人々への国家的な対応政策も存在しますが、予防の要素が欠けていることが最大の欠点であると指摘しました。
• 課題：診断された人々が必要なケアを受けられるようにすること、そして**社会的保護（ソーシャル・プロテクション）を含むセクター横断的な取り組み（intersectorality）**の改善が、今後の主要な課題であると述べました。

3.4. コスタリカ：トリプル・クライシスと公平性への懸念

マリタ・チャンブ国連常駐代表は、コスタリカが小さな国ながらも普遍的な社会システムを築いてきた歴史を紹介しました。

• 高齢化の速度：現在3万人の認知症患者がいますが、急速な高齢化により、25年後には症例が400%急増すると予想されています。
• 「トリプル・クライシス」：患者の3分の2が女性であるという事実から、認知症を健康危機、人権危機に加えてジェンダー危機でもあると捉えるべきだと提言しました。システムによって忘れられた女性たちが介護の多くを担っている状況を変える必要があります。
• 国家計画と知見の共有：コスタリカは2014年にラテンアメリカで初めて5か年計画を採択し、一次医療での早期検出やメモリークリニックでの家族支援を実施しています。
• 公平性への訴え：新しい治療法や技術は希望をもたらしますが、「費用を賄える人々にしか存在しない」という懸念を強く示しました。「覚えている人」と「忘れてしまう人」がいる二層の世界を作ってはならないとし、中所得国を含めたすべての人々が保健にアクセスできるよう、国際社会に真剣な対応を求めました。
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3.5. 認知症当事者：スティグマの正常化への期待

認知症当事者であるレヴ. シンスィア・ハーディングは、診断までの個人的な道のりを共有しました。

• 長期にわたる診断：49歳で症状が現れ始めましたが、正式な診断が下るまでに8年間を要しました。医師から牧師の職を辞すよう示唆された後、残された時間を「たぶんもっと（seven years, maybe more）」のために生きることを決意しました。
• 希望への転換：無力感を乗り越えるため、アルツハイマー病協会の研究（ADNI）に15年間参加し、「なぜ私に（Why me）」から「次は何をする（What’s next）」へと視点を転換しました。
• NCDs組み入れの意義：新薬やライフスタイル介入による遅延の可能性など、今は希望に満ちた時代であると語りました。彼女にとって、認知症をNCDs宣言に組み入れることは、認知症のスティグマを減らし、「正常化する」ための世界的な課題解決のテコになると強調しました。これにより、心血管疾患や癌などと協調してリスク削減キャンペーンを展開する機会が生まれます。

4. 科学とアドボカシーによる実践的な前進

4.1. アルツハイマー病協会CEO：科学的根拠と実装研究

ジョン・パイクCEOは、認知症のNCDs組み入れが、研究、治療、ケアが進展するこの歴史的な瞬間に極めて重要であると述べました。

• US POINTER試験の結果：フィンランドのFINGER試験に基づき、米国でリスク削減を検証したUS POINTER試験の最新結果を報告しました。この試験は、栄養、身体活動、認知的エンゲージメント、心臓の健康に焦点を当てたライフスタイル介入を調査しました。
• 脳の健康の改善：2年間の研究の結果、集中的な介入を行ったグループは、セルフヘルプグループと比較して、脳の健康の観点から1〜2年若いという高い成果を示しました。これは、介入のレベルに関わらず、脳の健康の低下に影響を与えることが可能であることを証明しました。
• 実装研究への投資：協会は、この知見を実世界での介入へと移行させるため、4年間で4,000万ドルを投資し、地域レベルでの実装研究を追跡調査・開始しています。
• 共同管理の経済的効果：認知症は他のNCDsのケアを複雑にし、医療費を高騰させます。米国では、慢性疾患と認知症の両方を持つ人の医療費は、慢性疾患のみの場合と比較してほぼ倍増します。NCDsのアジェンダに認知症を含めることは、共同管理を可能にする知識と政策構造を構築するための強力なテコとなります。

4.2. NCDアライアンスCEO：連携とモニタリングの必要性

ケイティ・ジェーンCEOは、認知症がNCDs宣言に含まれたことに対し、ADIと関係者の努力に「多大な賛辞」を送りました。

• 宣言が含む具体的な内容：新しい宣言には、神経疾患（アルツハイマー病を含む）の負担、NCDsとメンタルヘルス・脳の健康の密接な関連、スティグマと差別の克服の必要性、高齢化人口、そして**多病態（multimorbidity）**の認識と、プライマリヘルスケアレベルでの認知症への対応の必要性が具体的に含まれています。
• 次の3つの行動ステップ：宣言を具体的な行動に移すため、以下の連携が求められます。
  1. 共同アドボカシー：認知症コミュニティと広範なNCDコミュニティが、国内および地域レベルで共同の擁護活動を大規模かつ迅速に行うための足がかりとします。
  2. 共同キャンペーン：プライマリ・プリベンション（一次予防）のアジェンダを中心に共同の擁護活動を進めます。NCDsのリスク因子（タバコ規制、不健康な食事、アルコール削減、大気汚染など）は認知症と共通しており、WHOの「ベスト・バイ」（税金、ラベル表示、マーケティング規制など）を活用して、リスク削減の意識向上キャンペーンを国際的、地域的、国内レベルで展開する機会があります。
  3. モニタリングと報告の連携：現在、多くの国でNCD計画と認知症計画が分断されています。WHOが来年NCDsのグローバル・モニタリング・フレームワークを更新する際に、NCDsと認知症の追跡・監視方法を連携させる絶好の機会と捉えるべきです。

5. 総括：議論を象徴する3つのキーワード

セッションの最後に、パネリストの多岐にわたる議論を総括する3つのキーワードが共有されました。

1. 複雑性（Complexity）：当事者の生活経験から政策、ジェンダー、人権に至るまで、ニーズや問題の多様性と複雑さ。
2. 相乗効果（Synergy）：認知症と他のNCDアジェンダとのつながりなど、より緊密な協力と集合的な行動を通じて、互いの活動を増幅させる機会。
3. 希望（Hope）：非常に前向きで実りある前進の道筋を示す建設的な会話。特に、当事者の前向きな証言や、各国の具体的かつ実行可能な計画が、このアジェンダを前進させるための実現可能な方法を示している点。

このNCDs宣言への組み入れは素晴らしいスタートですが、この言葉と宣言を各国・地域レベルでの具体的な行動とコミットメントに落とし込むには、関係者全員のエネルギーとコミットメントが必要であると締めくくられました。